2021.05.12

まだ可愛くない王女のために。愛しつつあることの意味

長寿コラム

突然声をかけられて

頬にあたる風が少し涼しく感じた、ある夏の夜のこと。ぼくは愛犬の時雨(フレンチブルドッグ)の散歩途中で、ショッピングセンターの外のテラスに座っていた。時雨は足もとでのんびり伏せている。

月はくっきりとした満月。そろそろ秋になるんだなあ、と季節を感じる散歩だった。

「あの、すみません……ちょっといいですか?」

声をかけてきたのは年配の女性と、高校生くらいの息子さんらしきふたり。

足もとの時雨をちら、と見て「触ってもいいですか」と言った。もちろんどうぞ、とぼくがうなずくと、息子さんが手を伸ばし、下あごに触れた。犬が好きそうな人たちだ。

とにかく噛むんです

「実はうちにもフレンチブルドッグの子犬がいまして……ほとほと手を焼いていて。私たちをすごく、噛むんです。もう……眠れないくらいにまいってしまって」

時雨はこの親子に撫でられてごきげんそうにしている。

「とにかく噛むんです。痛いし、どうしたらいいんだろうって……」

ぼくは時雨の子犬時代を思い出していた。彼女にも噛み癖と呼ばれるものは 確かにあった。甘噛みだったのか、本気噛みだったのか、それはもう思い出せないけれども、ぼくの手のひらが流血したことはある。子犬は力強く、容赦がなく、憎たらしく、そしてとびきり可愛い。

犬にだって個性がある

「そのうち……噛まなくなるんでしょうか」

女性が少しだけ疲れたような表情でそう言った。

対処法はいろいろあるのだろうが、ぼくがドッグトレーナーと一緒に施した方法をかいつまんで話した。少なくとも時雨はそれでうまくいった。いまでは人の手に歯を当てることすらない。「アウト」と言えば、口にくわえているものを放すこともできる。これはいざというときに、誰かを守る、ひいては時雨を守るために、絶対に必要なトレーニングだったと思う。

根気よく、あきらめずに続けることがなにより大切だ、と目の前の親子に、ちゃちな先輩風を吹かさぬよう控えめに、けれども少々熱っぽい口調で訴えた。ドッグトレーナーのようなプロフェッショナルと一緒に行動することをおすすめするし、その子によってまた方法も変わってくる。犬にだって個性があるのだと。

「まだ」可愛くない

「それでも……子犬って可愛いですよねえ」

ぼくは追伸のように、あるいは軽口をたたく感じでそう言った。その時、女性はなんとも微妙な感情を持て余しているようだった。どう答えてよいのかわからない、そんな素振り。そしてそんな自分を恥じているようにも見えた。

「それでも可愛い」と思えることは犬と暮らすうえで原理原則として考えられている。けれども、そこを強迫的にするべきではないだろう。いつでもどこでも何をしても「可愛い」と思わなければいけない、なんていう蓋をかぶせるような言いかたはよくない。それは嘘になる。

つまり、そんな無理やりな思い込みは犬のためにならない。犬のためにならないことは、めぐりめぐって自分のためにもならない。

だったら、正直に暮らせばよいのではないだろうか。いまは「まだ」可愛くない、だって噛むから。でも、噛まないようになったら、たぶん可愛くなってくると思う。


きっと、愛しつつあるのだから。

いままさに困っていて、それをなんとかしたくて、見ず知らずのぼくにも話しかけ、どうにかヒントを探し出し、 行動に移そうとする。

心の中にいつも「問題の子」の姿がありながら、暴力で押さえつける選択もせず、心の交歓を望む。

その子との未来を想像することそのものが、愛しつつあるということだ。 まだ可愛くない王女のためにー進行形の「好き」が犬暮らしの醍醐味だったりするのではないだろうか。

きっと離れられなくなる

親子は満足そうに時雨を撫でて、「可愛い」と言った。

「……きっと離れられなくなりますよ」

とぼくは言った。女性がにこっと笑って、ぼくらは別れた。

一年後、また会えたらいいなと思った。 もちろん親子の傍らには、時雨に似たクリーム色の可愛い女の子がいるにちがいない。

まあちょっと甘噛みもあったけどさ、 だいぶ言うことを聞けるようになったよアタシ、とでもいうような。うわ、 時雨ならほんとうに言いそう。

執筆:雑誌編集長 小西秀司

フレンチブルドッグ専門誌「BUHI」(オークラ出版)、柴犬専門誌「柴犬ライフ」(KKベストセラーズ)編集長。あらゆるメディアで動物たちとの幸せな暮らしを提案している。著書に「動物たちのお医者さん」(小学館)「どうしてこんなにも犬たちは」(三交社)など。愛犬はフレンチブルの時雨(16歳を目前にお空へ♀)。

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Ta-Ta(タータ)の意味は「またね、明日ね」。 それは未来が続いていくことを願う、やさしい言葉です。
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